メンヘラ・小田切さんは今日も妻に貢いでいる
「――――翠李ちゃん?
どうしたの?」

「あ、あの…
亜夢さん、お年玉はいらないよ?」

「え……いら…な、い?」
亜夢の笑顔が次第に強ばり、悲しみに歪んでいく。

(あ、ヤバい!言い方間違えた!)
「あ!えーと…
その気持ちだけで十分って意味で!」
慌てて、弁解する。


………………でも、もう…遅かっ…た……


「どうして!!?
いらないって何!?
俺のこと、いらないの!?
それに、お金だよ!?
翠李ちゃん、俺のこと好きって言ったでしょ!?
どうして、拒否するの!?
―――――あ!そっか!
50万じゃ足りなかったんだね?
ごめんね、気づかなくて!
待ってて!
今からコンビニに行って、おろしてくるから!」

途端に不安にかられたように、翠李に言葉をぶつけた。


そう―――――
強面な容姿で、クールなスパダリ亜夢は“翠李に対してだけは”かなりのメンヘラ気味でいつも嫌われないように気遣うのだ。

翠李を異常な程に愛し、翠李がこの世の全てで亜夢の世界の中心。

翠李の前では、その容姿から想像できない程にヘタレで、いつも不安と戦っている。
いつも“自分だけを”好きでいてほしくて“自分だけを”見て考えていてほしくて、毎日のように金品を贈るのだ。
(翠李や周りの人間はひそかに“貢物”と言っている)

そして拒否すると、先程のようにひくくらいに狼狽え、ぶつけるように責めてくる。

そしてそれは、異性に関してもそうだ。
少しでも男性に関わるだけで不安にかられて「翠李ちゃんは、俺のこと好きだよね?
俺だけだよね?一人にしないで?俺、死んじゃうよ…」と翠李を脅すように責め立てるのだ。


「亜夢さん!落ち着いて!
大丈夫!
ずっと亜夢さんが好きだし、傍にいるし、お年玉凄く嬉しい!
いらないって言ったのは、その気持ちだけで十分って意味だよ!
亜夢さんが毎日プレゼントしてくれるから、十分なんだよ?って意味」

亜夢を包み込み(…って言っても、体格差があるので抱きつく形)頭を撫でながら言い聞かせた。

「ほ、ほんと?」
向き直り、窺うように顔を覗き込んでくる。

「うん!」
微笑み頷くと、やっと亜夢も安心したように微笑んだ。


“さすがにお腹すいたね”ということになり、部屋を出てダイニングに向かう。

モトコがこたつに横になって、特番を見ていた。

「おはようございます!小田切さん!」

翠李は、義母・モトコのことを“小田切さん”と呼んでいる。
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