メンヘラ・小田切さんは今日も妻に貢いでいる
それは、モトコが翠李の働いている職場の上司だからだ。
亜夢との出逢いも、母親であるモトコからの紹介である。


二年前。
モトコが店長をしているスーパーで、社員として働いていた翠李。

仕事が終わり、モトコから食事に誘われた。
そして言われた。
伏見(ふしみ)さん(翠李の旧姓)今彼氏いる?』

『いえ、いません…けど?』

『じゃあ、会わせたい人がいるのよ。
会ってくれない?』

『え?』

『お見合いみたいに立派なもんじゃないけど、息子に会ってもらいたくて!』

『あ、は、はい』

『見た目怖いし、クールだけど自慢の息子なの。
きっと伏見さんなら、息子を幸せにしてくれそうだから』

翠李は両親を早くに亡くしていて、祖父母に育てられた。
なので、明るく面倒見の良いモトコのことをある意味母親のように慕っていた。


そして、亜夢と翠李は出逢った――――――


亜夢は、完全な一目惚れだった。
明るくて笑顔が可愛い、天真爛漫な翠衣。
そしてなにより、真っ直ぐ自分を見てくれたから。

翠李は小柄なため弱々しく見られがちだが、実は意外と肝の据わっている女性だ。

それでいてどこかあっけらかんとした楽天家で、人を見た目で判断もしない。
なので亜夢を見ても物怖じせず、真っ直ぐ対応していた。

そして、翠李も亜夢に好意を持ったのだ。
そもそも翠李のタイプは、大きくて強そうな人。
自分が小柄で弱そうに思われるから、正反対の人を求めてしまうところがある。
だからまさに亜夢は、理想そのモノだった。
確かに強面だが、整った顔と頼り甲斐のある性格と大きな身体。
でも話をしている時は、照れたようにはにかむ、可愛い亜夢。

好意が愛情に変わるのも、そんなに時間がかからなかった。

モトコの予想通り、二人は急速に近づき、出逢って半年程で交際に発展した。

そして一年半弱の交際期間を経て、去年のクリスマスに籍を入れたのだ。


ずっと、モトコのことを“小田切さん”と呼び仕事をしていたので“お義母さん”と呼ぶのに少し抵抗がある翠李。

そのこともモトコは理解しているので、モトコも“伏見さん”と呼んでいる。

「亜夢、伏見さんおはよ!
…って言っても、もうすぐお昼だけどね(笑)」

「“翠李ちゃん”だ!!
他人みたいな呼び方すんな!」
しかしその呼び方を、亜夢は受け入れていない。

「は?
私達は、職場の仲間なのよ!
呼び方なんでどうでもいいでしょ!」

「良くねぇよ!」

「ちょっ…亜夢さん!」

「あ、翠李ちゃん!」

「ダメだよ!お義母さんにそんな言い方」

「だ、だって…
他人行儀でしょ?
翠李ちゃんはもう、伏見じゃないよ?
俺と同じ、小田切だもん」

翠李には、強く出られない亜夢。
言い聞かせるように言った。
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