メンヘラ・小田切さんは今日も妻に貢いでいる
「チョコ…俺以外に渡さないよね?
義理とか……」

「え?」
(ま、まさか!?安川さんに渡したこと、ば、バレた!?)

「あ…わ、わかってるんだよ?
翠李ちゃんは“そんなことしない”って。
でも、不安で……」
しつこいと思われないように、必死に弁解しながら言う亜夢。

「うん、大丈夫だよ」
そんな亜夢に翠李は、安心させるように微笑んだ。

(良かった…バレてなくて……)


しかし―――――亜夢の心配は、バレンタインではない。

バレンタインデーよりも、来月のホワイトデーの方が心配だ。

一昨年くらいから、ホワイトデーに男性から女性に告白するという習慣が流行っているからだ。

一昨年に、芸能人がそんなイベントをし始め、SNSで拡散。
それから、それが当たり前のようになったのだ。

亜夢にとって“こっちの方が”心配でならない。


そして今年も……… 

翠李の職場であるスーパー前。

「翠李ちゃん、絶対!貰っちゃダメだからね!
翠李ちゃんは、俺の奥さんなんだから!」

「うん、わかってるよ」

「あんましつこい奴がいたら、言ってね。
俺が一喝してやるから!」

「うん」

「………」

「………」

「…………あー、ダメだ!
やっぱ今日、休みなよ!
お袋には俺から言っとくから。
帰ろ?翠李ちゃん」
「え?」

「翠李ちゃん、絶対渡されるよ、チョコ。
あー、考えただけで頭がおかしくなる…!」

「ちゃんと断るから」
(たぶん、貰わないと思うけど…)
頭を抱え込む亜夢に、言い聞かせる。

「………」

「だから…ね?
ほら!電車!時間!遅れるよ?」
安心させるように微笑み、駅の方に促した。

それでも亜夢は、不安そうに眉をひそめて駅に向かうのだった。

それを見送り、翠李は従業員出入り口から中に入る。
「おはようございます!」
元気よく挨拶すると、アルバイトの男性が近寄ってきた。

「おはようございます、伏見さん!」

「あ、細野(ほその)くん。おはようございます!」

細野は今年大学を卒業する、大学四年生。

卒業後はこのスーパーの本社で働くため、今はアルバイトとして一緒に働いている。

翠李に気があり、よく声をかけている。

「あの!これ!受け取ってくれません?」
細野が渡してきたのは、紛れもなく“チョコ”だった。

「え……」
(えーーー!
出勤早々…!?)

「あ、結婚してることは知ってます!
でも、気持ちだけ受け取ってほしいってゆうか……」

「………」

「伏見さん?」

「ごめんなさい!」

「え?」

「受け取れません!」

「…………やっぱ…ダメですか?」

「ごめんなさい…!」

翠李は、ペコペコ頭を下げたのだった。
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