メンヘラ・小田切さんは今日も妻に貢いでいる
一方の亜夢。
作業着に着替えながら、敏郎に声をかけていた。

「――――ねぇ、トシくん」

「んー?」

「トシくんは、なんでそんな余裕なの?」 

「は?
余裕?
何言ってんの?
先月ノルマこなせなくて、今めっちゃ切羽詰まってんだけど!?」

「は?ノルマ?」

「ノルマ」

「何の話?」

「は?仕事の話」

「仕事なんかどうでもいいんだよ!
俺は!チョコの話してんの!!」

「チョコ?」

「うん、チョコ。
今日は、ホワイトデーでしょ?
若崎のこと心配じゃないの?」

「………」

「若崎も“それなりに”美人でしょ?
まぁ…“翠李ちゃんには到底及ばないけど”
もしかしたら、貰うかもよ?チョコ。
一つくらいは。
“翠李ちゃんには到底及ばないけど”」

「………」

「“翠李ちゃんには到底及ばないけど”大学ん時もよく声をかけられてたでしょ?」

「………別に。 
つか!“翠李ちゃんには到底及ばないけど”って……失礼な奴だな」

「は?そうじゃん。
翠李ちゃんは“誰よりも”可愛いし、美人だし、良い女だよ」

「確かに可愛いし、良い女だと思う。
でも、俺にとっては冬菜が一番だ…!」

「でしょ?
だから、心配でしょ?」

「だから!別に!」

「は?どんな神経なの?」

「うん、それ、そっくりそのまま返すわ」

「は?」

「冬菜が誰から何個チョコを貰おうと、何人から告られようと、別にどうでもいい。
冬菜の愛情は、ちょんと伝わってるから」

「ふーん」

「お前だって、翠李ちゃんの愛情ちゃんと伝わってんだろ?」

「うん。
翠李ちゃんが、俺を愛してくれてんのわかってる」

「じゃあ、良いじゃん」

「………良くないから、不安で死にそうなんだけど?」

「例え沢山の奴等から渡されても、翠李ちゃんが受け取るわけないだろ?」

「うん、約束してくれたよ?」

「だったら、信じてやれよ。
翠李ちゃんを、信じてやれ」

「………うん…」

「ほら、仕事行くぞ?」
肩をポンポンと叩く敏郎に頷き、亜夢も仕事にとりかかるのだった。


その日の仕事終わり―――――
亜夢は、デパートにいた。

翠李に渡すプレゼントを買いに来たのだ。

ホワイトデーなので、お返しも込めてなのだが…
実はまだ、何を贈るか決めていなかった。

翠李が誰かからチョコを貰うのでは?と、そればかり気になり、自分が贈るプレゼントのことまで気が回らなかったからだ。

何か、形が残る物がいい。

翠李の心に“小田切 亜夢という存在を”深く刻み込めるような物が。

「やっぱ、アクセサリーかな?」

そう呟き、ジュエリーショップへ向かった。
< 21 / 49 >

この作品をシェア

pagetop