つれない男女のウラの顔
「そういう相手が現れたら、マイコには一番に報告するから」
「ほんと?約束よ」
というか、そういった話が出来る相手がマイコしかいないから、必然的にそうなるだけだけど。
「あまり期待しないで待っててね」
「はいはーい」
苦手な話題がやっと終わったところで、お皿の上に綺麗に盛られているローストビーフを箸でつまんで口に運ぶ。上にかかっていた玉ねぎのソースと絶妙にマッチしていて、頬がとろけるかと思った。
「おいしい~っ」
思わず声が零れた直後、ふとお店のドアが開いたのが横目に見えた。どうやら数人の男性客が来店したらしい。
こういう時、不意に目が合うと困るから、なるべく視線を伏せて人の顔は見ないようにしている。だから今だって、その数人の男性客の服を一瞥しただけで、すぐにマイコの方に視線を戻したのに…。
「ねぇ、今入って来たお客さん、同じ会社の人じゃない?」
マイコの声に、思わず男性客のひとりに視線を移してしまった。
「あっ、あの人だ。研究開発部の成瀬さん」
「え、あの成瀬さん…?」
成瀬 旭──彼は私達と同じ会社の研究開発部の主任で、歳は確か3つくらい上だったかな。
彼は入社当初から一目置かれているエリート社員で、それでいて端正な顔立ちをしていて、特に女性社員からの人気が高い。
切れ長の目、すっと通った鼻筋、薄い唇。所謂塩顔の彼は確かにイケメンだと思う。
だけど彼の人気の理由はイケメンというところにだけあって、実際は無愛想で、こちらが冗談を言ってもクスリとも笑わないし、仕事以外のことで話しかけても塩対応らしい。もはや感情が死んでいるんだとか。
それでも、あの顔立ちだから入社当初は大変モテたのだと、先輩達の会話を盗み聞きしたことがある。
だけど女を一切寄せ付けないから、いつしか誰も近づかなくなった。今でも人気はあるけど、目の保養だけで十分らしい。
毎年新入社員が彼を見て騒ぐけど、それも最初の1、2ヶ月だけ。
彼の浮いた話は、まだ一度も聞いたことがない。