つれない男女のウラの顔
研究開発部というのはコミュニケーション能力が問われる部署でもあるけれど、果たして彼に務まるのだろうかというのが誰しもが抱く疑問。
けれど彼は仕事に対しては丁寧で、いつも冷静に対応していて、プレゼンやコンペでも流暢に話すらしい。
それに、いつも厳しく目を光らせているけれど決して怖いわけではないのだと、彼の部下が言っていたのを聞いたことがある。
傍から見れば能面男だけど、ただのシャイなんだ。という話を聞いた時には思わず笑ってしまった。だって、まるで私のことみたいだから。
こんな心の声を彼に聞かれてしまったら、一緒にするなと一蹴されてしまいそうだけど。
とにかく、最近の彼は“研究にしか興味がないただの変態”キャラで定着しつつある。
そして私は、そんな彼に少しだけ憧れを抱いていたりする。
だって、私も彼のように常に冷静な人間になりたいから。不意打ちにも動揺しない、鋼の心臓がほしいから。
「相変わらずイケメンだわ。まあ私の推しには勝てないけど」
「…確かに、顔は整ってる」
「他の人達は同じ会社の人ではなさそうね。となると、成瀬さんの友人なのかな」
私と同じでコミュ障なのかと勝手に思っていたけれど、違ったのかな。
ここでも敗北感。また少し彼に対する憧れが強くなった。
「成瀬さんでもこういう店に来るんだねー。お肉よりも野菜って感じなのに」
「どんなイメージなの。まあ確かに、彼がお肉にがっつく姿は想像出来ないけど」
「あ、でもナイフとフォークを使った高級ステーキなら似合うかも」
私達が中身のない話をつらつらと紡いでいる間に、成瀬さんを含んだ男性集団がいつの間にかすぐそばまで来ていた。
この会話を聞かれたらやばいと判断した私は、マイコに向かって慌てて「シーッ」のポーズを取る。その直後、一番目が合いたくなかった彼と、パチッと視線が重なった。