つれない男女のウラの顔
──うわ、やば。
すぐに目を逸らしたけれど、バレただろうか。いくら部署が違うといっても、成瀬さんが品管に訪れることは多々あるし、勿論言葉を交わしたこともある。
もし私ってことがバレてたら、絶対今の感じ悪いよね。やっぱり挨拶した方がいいのかな。
いやでもその後の会話が続かないし「あんた誰?」って言われたら死ぬほど恥ずかしいし…
「あ、成瀬さんお疲れ様です」
「?!」
さすがコミュ力おばけ。
私が葛藤している間に、何の躊躇もなく彼に話しかけた。
案の定成瀬さんは、ピタリと足を止めて怪訝な目で私達を見下ろしている。
「お、お疲れ様です…」
ビクビクしながらマイコに続けた。思いのほか小さな声になってしまったから、成瀬さんに届いたのかは分からない。
そして突然声を掛けられた成瀬さんはというと、未だに私達を見下ろしたまま黙っている。
「私達のこと分かります?同じ会社なんですけど」
マイコの物怖じしないところは流石だと思う。ニコッと笑みを浮かべて「経理の八田です」と続けると、成瀬さんは何か思い出したように「ああ」と小さく零した。
「こっちは品管の花梨です」
マイコがついでに私の紹介までするから、成瀬さんの視線がマイコから私に移動した。
再び目が合って、思わず息を呑む。こうなると目を逸らせないから、自然と心拍数が上がっていく。
どうしよう、顔が熱い。ただでさえお酒のせいで火照っているのに。
まずいぞ。マスクもないし隠せない。
マイコめ、なんてことをしてくれたんだ。