つれない男女のウラの顔
「とりあえず成瀬さんのことは一旦置いといてさ。実は京香にお願いがあるんだけど」
「切り替え早すぎでしょ」
成瀬さんのことには興味がないのか、マイコは突然上目がちに私を捉え、甘えるような仕草を見せる。
「お願い…?」
「推しのライブチケット、1枚余ってるの。一緒に行くはずの友達が急遽出張が入って行けなくなって。今週末なんだけど…一緒に行かない?」
「あー、ごめん。今週末は無理だ。引越しがあるから」
今住んでいるアパートの更新を期に、少し前から引っ越しの準備を進めていた。そしてその引越し業者が来るのが、ちょうど今週末なのだ。
「あああーーーそうだった、すっかり忘れてた。良い物件見つかったんだね」
「うん、今より部屋も広くて綺麗だしセキュリティもしっかりしてる。防音性も高いみたいだし」
「そういえば京香って雷が怖いんだっけ?かわいーい。そりゃ防音は大事よね」
「それ、子供っぽい悩みで恥ずかしいからあまり言わないで。それに決め手は防音だけじゃなくて、周りの環境的にも静かそうなところだし、引きこもりの私には持ってこいな部屋で…」
「うわー、それはますます独身街道まっしぐらな感じするけど、大丈夫そ?」
「そこはまあ、あまり突っ込まないでいただけると助かります」
「ふふふ、冗談よ。ま、手伝えることがあったら何でも言ってよ。そして落ち着いたら是非遊びに行かせて」
「もちろん」
引越しの作業は正直面倒だし、片付けのことを考えると今から憂鬱だけど、新しい環境で暮らせることに、とてもワクワクしている。
独身街道まっしぐら…なのはちょっと困るけど、会社からは少し離れているから、知り合いに会うこともなさそうだし。
──なんて考えは、甘かったのだろうか。