つれない男女のウラの顔




「よし、だいぶ片付いた」


まだ部屋の隅に荷物入りのダンボールがいくつか残っているけれど、先程まで足の踏み場もないほど散らかっていたのが嘘のように綺麗になった。

あとは数日かけてゆっくり部屋を完成させつつ、私にはもうひとつやらなければいけない事がある。

私にとってのビッグミッション…それは“引越しの挨拶”。

最近では一人暮らしの挨拶周りはしないケースが多いと聞くけれど、せめてお隣さんと上下階の人にはしておこうと、粗品も用意しておいた。

仕事の日以外は基本的に引きこもっているため、誰かを家に招いて騒いだりすることはないと思うけど、一応ね。


「その前にちょっと休憩」


今日設置したばかりの冷蔵庫から取り出したのは、ここへ来る前に買っておいた缶ビール。片付けが一段落ついたら飲もうと思って冷やしておいたのだ。

その場で開けて、キンキンに冷えたビールをすぐに喉へ流し込むと、その美味しさに「おいしーっ」と声が出た。普段は無表情で過ごしているため、表情筋は死にかけているけど、今の私はかなり頬が緩んでる。

1日動き回っていたからか、最高に沁みる。夏は苦手だけど、ビールがいつも以上に美味しく感じるところは好き。

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