つれない男女のウラの顔
「ではさっそく昨日のおさらいでもしてみるか?」
「おさらい…?」
一瞬何のことか分からずキョトンとする私に、成瀬さんは「京香、手貸して」と言うと、ハンドルを握っていない方の左手を差し出してきた。
まさか────漸く察した私がおずおずと右手を出すと、成瀬さんの左手が掬うように私の手を取り、指を絡ませた。
アームレストの上でしっかりと繋がれた手を見て、喜びと戸惑いでどんな顔をすればいいのか分からない。
繋ぎ方はこれで合ってる?私の手だけぎこちなくない?
不安を抱えたままハイペースでレベルアップしていく“デート”に、心も体も追いつかない。
「旭さん…運転しづらくないですか…?」
「全然。たまに離すことがあるかもしれないが、京香はそのままここに手を置いて、俺の手が帰ってくるのを待ってて」
「は、はひ…」
上手く呂律が回らず「はい」の一言を思いっきり噛んでしまった。けれどそんな小さな失敗なんて気にならないくらい、繋がれている手に意識が集中していた。
ご指導お願いいたしますって言ったけど、これは指導なのだろうか。厳しさより甘さが目立って仕方がない。
成瀬さんは本当にデート初心者なの?躊躇なく私の名前を呼ぶし、あまりにも全てがスマートで、彼の“女性に免疫がない”発言が嘘に思えてくる。
──いや、この際嘘でも何でもいい。
私はただ、この初めての恋をただの思い出にはしたくなかっただけだから。
少しでも成瀬さんを記憶に刻みたくて、嘘でもいいから成瀬さんと恋人のような時間を過ごしたかっただけだから。
「…いい天気ですね」
「そうだな」
「楽しい一日になりそう…」
「なるよ。というか、楽しい一日にしよう」
優しい人だ。こういうところに惚れたのだと思う。
私が一方的に誘ったデートなのに、一緒に楽しもうとしてくれていることが嬉しくて、胸がじんと熱くなった。