つれない男女のウラの顔
ふと、離れたところで足湯に浸かっている若いカップルが視界に入った。年齢は20歳くらいだろうか。寄り添いながら楽しそうに会話しているふたりの手は、しっかりと繋がっている。
私も成瀬さんの手を繋いでみようかな。と、彼の手にそっと自分の手を伸ばすと、それに気付いた成瀬さんはさりげなく私の手を取って指を絡めた。
おずおずと視線を上げると、優しく目を細めた彼と視線が交わる。愛しい彼との幸せな一時に、思わず頬が緩んだ、その時だった。
「あのー、すみません」
突然後ろから声を掛けられ、ビクッと大きく肩が揺れた。
弾かれたように振り返ると、そこにいたのは私と同い年か、少し年下くらいの男性で、手には高そうなミラーレスのカメラを持っている。
「今お時間よろしいですか?」
控えめに尋ねられ、咄嗟にキョロキョロと周りを確認してしまった。
この人、私達に声を掛けてる?
慣れない土地で声をかけられ、思わず挙動不審になっていると、謎の男性は笑いながら「あ、おふたりに声をかけてます」と続けた。
「どうしました?」
人見知りを発揮する私の代わりに、成瀬さんが冷静に答える。すると謎の彼は「実は今、ストリートスナップを撮らせてもらってて…」と聞き慣れない言葉を発した。
すとりーとすなっぷとは?
頭の上にハテナが浮かぶ。それは成瀬さんも同じだったようで、彼は怪訝な表情をしながら「それはなんですか」と謎の男性に尋ねた。
「素敵だなと思う方に声を掛けて、僕のこのカメラで写真を撮らせてもらってるんです。許可をいただければSNSにアップしたり…」
「………なるほど」
「それで、是非おふたりを撮らせていただきたいなと思いまして。とてもお似合いで、いい写真が撮れそうなので」
───私と成瀬さんのツーショット!?
それは成瀬さんだけの方がいい気がする。彼なら絵になるし、絶対に素敵な写真が撮れるから。むしろ成瀬さんを撮ってSNSにアップしてくれたら、もれなく私もスクショするのに。
「ちなみにおふたりはどのようなご関係で…?」
「……」
珍しく歯切れの悪い成瀬さんは、表情こそ崩さないが、返事に困っている様子。
恐らくこの男性は「恋人です」か「夫婦です」の言葉を待っているのだろう。私達は今も手を繋いでいるから、そう思われても仕方がないのだけど。
手を繋ぎながら“友人”とか“隣人”だなんて言えない。ならば正直に「答えられません」って言う?いや、それを言ったら確実に不倫だと思われるでしょ。