つれない男女のウラの顔
「ほら、旭さんって実はよく笑うじゃないですか。感情が死んでるなんて嘘です」
「京香の前だけだよ」
「え…?」
「京香といると、自然とこうなる。こんなことは初めてで、正直自分でも驚いてる」
「そうなんですか…?」
それってどういうこと?
私には心を開いてくれているってことなのだろうか。だとしたら…
「…嬉しいです」
成瀬さん自身が知らない部分を、私が引き出せているのだとしたら、こんなにも光栄なことはない。
彼にとって私は、少しでも記憶に残る存在になれているのかな。
私にとっての成瀬さんは、一生忘れることのないくらい、大きくて大切な存在ですけどね。
「ずっとこうしてたいなあ…」
カウンター席から見える海を眺めながら、思わず心の声が漏れた。
このデートが終わらなければいいのに。時間が経つにつれ、その気持ちが大きくなっていく。
“旭さん”って、あと何回呼べるだろう。まだ呼び慣れなくて、その言葉を口にする度にくすぐったくなるけど、その瞬間は本物の恋人になった気持ちになれるから、まだまだこの名前を呼んでいたい。
そして、彼にももっと「京香」って呼ばれたい。
こんなにも成瀬さんに恋をした状態で、私は本当に匠海くんとデートが出来るのだろうか。断ったら母が悲しむかな…。
「───おねーさん、いいおっぱいしてんな」
ぼんやりと景色を眺めていたら、突如後ろから聞き慣れない声が鼓膜を揺らし、弾かれたように振り返った。
その台詞は衝撃的なものだったけれど、それよりもっと衝撃的だったのは、声を掛けてきたのが小さな男の子だったこと。
「…えっと…?」
「きめた、オレおねーさんとけっこんする」
「え?!」
「だからオレのおんなになってよ」
まさかの告白。堂々と言葉を紡いだその子は、私のそばで立ち止まるとニカッと笑った。
まだ未就学児だろうか。少し舌っ足らずだけど、ハッキリとした顔立ちだからか幼いながらにイケメンで、思わずキュンとしてしまう。
「きみ、おなまえは?」
「ひゆう!」
「ひゆう君?おねーさん、ひゆう君よりだいぶ年上だけど大丈夫?」
「うん。いいおっぱいの女にわるいやつはいないって、とーちゃんが言ってたから」
何この子、めちゃくちゃ可愛い。