つれない男女のウラの顔
「あ、陽夕こんなところにいた!」
不意に聞こえてきた声に、ひゆう君は「やべ」と小さく零した。
声がした方を見ると、ご夫婦らしき男性と女性がいて、男性は小さな女の子を抱っこしている。
ひゆう君のご両親なのか、よく見るとひゆう君と顔が似ていて、さっき彼が言っていたように、どちらも美形だ。なるほど、だからひゆう君も端正な顔立ちをしているのか。
「うちの子がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「あ、いえ全然…!」
うちの子ということは、やはりひゆう君のご両親なのだろう。
ひゆう君のお母さんが申し訳なさそうに頭を下げるから、全力で首を横に振り「可愛いお子さんですね」と返した。
ひゆう君のお母さん、めちゃくちゃ綺麗だ。というか色気がすごい。私には無い大人の魅力が、これでもかってくらい溢れている。
そしてひゆう君はというと、さっきまで満面の笑みで成瀬さんと戯れていたのに、今はスンと真顔になってお母さんを見ている。叱られる前の子供って感じで、これまた可愛い。
「陽夕、お母さんはお会計してくるから、お父さんと待っててって言ったでしょ」
「だってとーちゃんがかーちゃんのことばっか見てるから」
「おい陽夕、俺はかーちゃんを見てたんじゃなくてかーちゃんのおっぱ…」
「お願いだから外でそういうこと言うのやめて?」
お父さんが何か言いかけたのを遮るように口を開いたお母さんは、小さなため息を吐きながらひゆう君の手を繋いだ。
「ほら、行くよ」
「えー。オレまだおねーさんとあそびたい」
「電車見に行くんじゃなかったの?」
「んー…やっぱり電車はいいや!」
お母さんの誘導作戦は失敗に終わり、ひゆう君は「おねーさんとあそぶ!」と私を捉える。
すると今度は、お父さんが口を開いた。
「そうだ陽夕、俺のパイの実やろうか」
「パイの実…たべたいけど…」
「チョコパイもあるぞ」
「え」
「確かエンゼルパイもあったな。あれ柔らかくて美味いの知ってるか?今日は特別に陽夕にも食わせてやろうか」
「たべる!」
「あーでも車の中にあるんだよなあー」
「くるま行く!」
おお…さすがお父さんだ。簡単にお菓子で釣ってしまった。
あんなに私にアピールしてくれていたのに、ひゆう君はパァッと笑顔になると、私に向かって「またな!」とあっさり手を振った。
少し寂しい気持ちもあるけれど、5歳児らしい単純なところに癒された。
去っていくひゆう君達の後ろ姿を見て、家族っていいなぁと思った。