つれない男女のウラの顔


「あ、陽夕(ひゆう)こんなところにいた!」


不意に聞こえてきた声に、ひゆう君は「やべ」と小さく零した。

声がした方を見ると、ご夫婦らしき男性と女性がいて、男性は小さな女の子を抱っこしている。

ひゆう君のご両親なのか、よく見るとひゆう君と顔が似ていて、さっき彼が言っていたように、どちらも美形(・・)だ。なるほど、だからひゆう君も端正な顔立ちをしているのか。


「うちの子がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「あ、いえ全然…!」


うちの子(・・・・)ということは、やはりひゆう君のご両親なのだろう。
ひゆう君のお母さんが申し訳なさそうに頭を下げるから、全力で首を横に振り「可愛いお子さんですね」と返した。

ひゆう君のお母さん、めちゃくちゃ綺麗だ。というか色気がすごい。私には無い大人の魅力が、これでもかってくらい溢れている。

そしてひゆう君はというと、さっきまで満面の笑みで成瀬さんと戯れていたのに、今はスンと真顔になってお母さんを見ている。叱られる前の子供って感じで、これまた可愛い。


「陽夕、お母さんはお会計してくるから、お父さんと待っててって言ったでしょ」

「だってとーちゃんがかーちゃんのことばっか見てるから」

「おい陽夕、俺はかーちゃんを見てたんじゃなくてかーちゃんのおっぱ…」
「お願いだから外でそういうこと言うのやめて?」


お父さんが何か言いかけたのを遮るように口を開いたお母さんは、小さなため息を吐きながらひゆう君の手を繋いだ。


「ほら、行くよ」

「えー。オレまだおねーさんとあそびたい」

「電車見に行くんじゃなかったの?」

「んー…やっぱり電車はいいや!」


お母さんの誘導作戦は失敗に終わり、ひゆう君は「おねーさんとあそぶ!」と私を捉える。
すると今度は、お父さんが口を開いた。


「そうだ陽夕、俺のパイの実やろうか」

「パイの実…たべたいけど…」

「チョコパイもあるぞ」

「え」

「確かエンゼルパイもあったな。あれ柔らかくて美味いの知ってるか?今日は特別に陽夕にも食わせてやろうか」

「たべる!」

「あーでも車の中にあるんだよなあー」

「くるま行く!」


おお…さすがお父さんだ。簡単にお菓子で釣ってしまった。

あんなに私にアピールしてくれていたのに、ひゆう君はパァッと笑顔になると、私に向かって「またな!」とあっさり手を振った。



少し寂しい気持ちもあるけれど、5歳児らしい単純なところに癒された。


去っていくひゆう君達の後ろ姿を見て、家族っていいなぁと思った。

< 189 / 314 >

この作品をシェア

pagetop