つれない男女のウラの顔

「京香」


名前を呼ばれて、やっと成瀬さんの方を見た。
此方を一瞥した成瀬さんと視線が絡んで、ドキッと心臓が跳ねる。


「疲れてないか?」

「全然。楽しい時間はあっという間ですね」

「よかった。楽しんでもらえてたのか」

「もちろんですよ。デートっていいものなんだなって、この歳になって初めて気付きました」


元彼とも出来なかったデート。こんなにも楽しく感じられたのは、成瀬さんとだからだ。


「景色が綺麗だったしな」

「海鮮丼も美味しかったです」


もしもご飯が不味くたって、成瀬さんとならきっと楽しかった。
成瀬さんといるだけで心が穏やかになって、満たされて、気持ちが落ち着くのだから。


「…ちゃんと練習になったか?」

「はい、なりました。でも……」


ごめんなさい成瀬さん。

許されるのなら、もう少しだけ時間をください。


「まだ少し…練習不足かなって思ったり…」


1日付き合わせておいて、なんて贅沢な発言をしているのだと、自分に呆れる。

だけど私には今日しかない。こんな大胆なことを言えるのは、デートである今日だけだから。


「もう少し自信が欲しいので、旭さんがよければ…」

「俺も、まだ足りないと思ってた」


私の言葉を遮るように口を開いた旭さんは、私の手を握っている左手に、微かに力を込めた。

足りない(・・・・)というのは、きっと練習不足という意味だと思うけど、なぜか私が(・・)足りないみたいな言い方をするから、自然と顔に熱がこもる。


「少し遠回りをして帰ろうか。ご飯もついでに食べて帰ろう」

「…はい」


嬉しい。まだ一緒にいられる。思い切ってお願いしてみてよかった。

下がりきっていたテンションが一気に上がって、分かりやすく口元が緩んだ。

火照った頬がバレないように顔を伏せて、握られている手をじっと見つめながら、幸せを噛み締めた。


───成瀬さんは今、どんな顔をしているのだろう。
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