つれない男女のウラの顔
「…それは、今でも男が苦手だから?」
そう尋ねてきた彼の声は、とても穏やかだった。こんな時でも優しい彼に胸が締め付けられて、自然と涙が溢れた。
「確かに今でも男の人は苦手だけど、それが理由じゃない」
手の甲で涙を拭いながら力なく首を横に振り、彼の目を見ながらはっきりと答えた。
「てことは、他に好きな人がいるとか?」
今度はそう問われ、私は素直に頷いた。匠海くんは「そっか」と呟き「それなら仕方ないな」と眉を下げて笑った。
もしもこれが成瀬さんに出会う前だったら。私はきっと、匠海くんと一緒にいることを選んでいたと思う。
戸惑いはあっても、匠海くんとの未来に不安を抱くことはなかったと思うから。
だけど私は成瀬さんに出会ってしまった。本当の恋を知ってしまった。
成瀬さんと結ばれる保証なんてどこにもないけど、彼の隣にいたいと心が強く願ってしまう。彼の熱が恋しくて仕方がない。
「本当に、ごめんなさい…」
「だから謝るなって。京香は何も悪くないだろ」
匠海くんが本当にいい人だからこそ、罪悪感でいっぱいになる。拭っても拭っても涙が溢れてくる。
「ちなみに、その人はどんな人?」
「…寡黙で、クールに見えて、実はすごくあたたかい人」
「歳は?」
「3つ上だったかな。同じ会社の人で、私がたまたま隣の部屋に引越して、そこから少しずつ…」
「隣の部屋…いいな、羨ましい。その人とは上手くいきそうなのか?」
「分からない。ずっと手の届かない場所にいる人だと思ってたから、その人とどうにかなりたいとか、そんな願望もなかったの。でも、初めて好きになった人だから、この気持ちを大事にしたくて」
こんな気持ちのまま匠海くんと付き合うことなんて出来ない。匠海くんは私にとって大事な人。だからこそ中途半端なことはしたくなかった。
私は一度それで失敗しているから。もう同じ過ちは繰り返したくない。