つれない男女のウラの顔
匠海くんは自嘲気味に笑うと、まだ一度も手をつけていない私のナポリタンに視線を移した。「早く食わないと冷めるぞ」と言われ、おずおずとフォークを手に取る。
食欲なんてない。今は食事どころではない。
けれど鼻を啜りながらもナポリタンをひと口たべると、その美味しさに思わず「おいしい」と声が出た。
さっき匠海くんは、オムライスを見る度に失恋を思い出しそうと言っていたけど、私は間違いなく、ナポリタンを見る度に匠海くんを思い出すだろう。
「なぁ京香」
涙を流しながら咀嚼する私に、匠海くんは「いいものをやろうか」と言ってにやりと口角を上げた。
唐突な問いかけに「いいもの…?」と思わず小首を傾げる。
「どうせ京香のことだから、自分に自信がなくて、その恋を拗らせてんだろ」
さすが匠海くんだ。私のことをよく分かっている。
昨日も、マイコの助言を無視して、自分の気持ちを伝えられず、それどころか思ってないことまで口にしてしまった。匠海くんの言う通り、完全に拗らせていると思う。
「まぁ初恋を何年も拗らせてた俺が偉そうに言えることじゃねえけど。今から俺が、京香に自信をやるよ」
匠海くんはそう言うと、優しく目を細めながら私を捉えた。
「京香、お前の笑った顔はめちゃくちゃ可愛い。普段はクールに見えるけど、笑ったら目尻が垂れんの。俺はその笑顔に何度も癒された」
「…っ」
まさかの褒め殺し。匠海くんのストレートな言葉は、私の体温を一気に上げた。
顔が熱い。絶対に赤面してる。
匠海くんに見られるのは慣れているはずなのに、恥ずかしくて目が泳ぐ。
「その赤い顔も俺は好きだ。その顔が見たくて、昔はわざと京香を照れさせてた」
「え、そうなの?知らなかった…」
「あと、京香は自分をコミュ障だって言うけど、誰に対しても優しくて、人を悪く言わないところが魅力的だと思う」
「誰に対しても優しいのは匠海くんの方だよ…」
「分かってねえな。京香の前で格好つけてただけに決まってんだろ。本当はものすごく腹黒いからな」
「それは絶対うそでしょ」
「ほんとだって。今もこんなこと言っておきながら、その人が実は既婚者で、やっぱり俺がいいって言ってくれないかなって思ってる」
最低だろ。匠海くんはそう言って苦笑したけど、全然最低だとは思わなかった。匠海くんが腹黒くないことは、幼なじみの私がよく知っているから。