つれない男女のウラの顔
「…そんなふうに言われたら、止められなくなるだろ」
眉を下げながら呟いた彼に、私は「なんで止める必要があるんですか?」と思わず本音で返した。予想外の返事だったのか、成瀬さんは戸惑いの表情を見せる。
「…いや、だってまだ付き合いはじめたばかりだし、京香にも心の準備があるだろうし…」
「…私だけの問題ですか?旭さんの気持ちは…?」
それとも、私には“抱きたい”と思うほどの魅力がないですか?──後に引けなくなった私の口からは、昨日言えなかった気持ちが溢れるように出ていた。このままだと、今日もお預けを食らうような気がしたからだ。
「昨日、本当はやめてほしくなかったんです。もっともっと触れてほしかった」
ここまでくると恥ずかしいという感情すら消えていた。本音を伝えるなら今しかないと思った。
真っ赤な顔で訴える私を見て、成瀬さんは目を丸くしながら「それは本当か…?」と小さく零す。
「今日、浮気くんとグータッチした時に改めて思いました。私が触れたいのは旭さんだけなんだなって。昨日は咄嗟に心の準備が出来ていないって言ってしまいましたが、あれは嘘です。初めてはぜんぶ、旭さんがいい。旭さんになら何をされても構いません」
「…京香」
「私に魅力がないのなら言ってください。努力して自分を磨きます。だから…」
顔を真っ赤にして懇願する私の額に、成瀬さんは自分の額をコツンとぶつけた。
至近距離で視線が交わり、ドクンと心臓が跳ねた。けれど彼の目はどこか苦しそうで、思わず胸が痛んだ。
もしかして私、前のめりすぎた?もし本当に勃たないのが理由だったなら、今のは彼にとってプレッシャーになったのでは…
「魅力がないなんて、そんなこと思うわけないだろ。俺だって京香に触れたくて仕方がないよ。でも大事にしたいから簡単に手が出せないんだ」
「……え?」
「本音を言えば、今すぐにでも抱きたい。でも京香に少しでも恐怖心があるなら、俺は手を出したくない。気持ちが溢れ過ぎて止められなくなるかもしれない。自分がどうなるのか、想像出来ないのが怖い。こんな気持ちになるのは、京香が初めてだから」