つれない男女のウラの顔
ドキッとした。成瀬さんがあまりにも真っ直ぐ見つめてくるから。
かあーっと顔が熱くなって、慌てて目を逸らした。けれど成瀬さんからは未だに熱い視線を感じる。
ついさっきまで説教モードだったはずなのに、なにこの空気。どうしてこんなにドキドキさせられてるの。
「あっ、あの、そんなに見られると恥ずかしいんですけど…」
「人の赤くなった顔を見るのは新鮮でいいな。お陰でこっちは冷静になれる」
「……ずるい」
呟いたと同時にインターホンが鳴った。恐らく注文していた食事が届いたのだ。到着までに時間がかかると言っていたけど、意外と早く着いたみたい。
お陰で助かった。
「受け取ってくるから、そこで待ってて」
玄関に向かう成瀬さんの背中を見つめながら、さっきの言葉を思い出す。
“花梨の傷付くところは、見たくないから”
普段感情を表に出さない人のあたたかい言葉って、どうしてこんなにも胸に響くのだろう。
成瀬さん…部下思いの優しい人だ。
そこで待ってて、と言われたけれど何となく落ち着かなくて、スツールから腰を上げて部屋の中をうろうろしながら成瀬さんが戻ってくるのを待った。
そこでふと目に入ったのは、キッチンのシンクに置いてある食器用洗剤。確かこれ、私が引越しの挨拶で渡した“日用品セット”に入っていたものと同じやつ。
(成瀬さん、さっそく使ってくれてるんだ)
なんだか嬉しくて、思わず頬が緩んだ。その直後、玄関の方から足音が近付いてきて、このにやけた顔を見られないように慌ててTシャツの襟で口元を隠した。
けれど、ふわっと鼻先を掠めた匂いで、すぐに襟を元に戻した。そうだった、この服は成瀬さんのだった。
嗅ぎ慣れない匂いに、頭がくらくらする。しかもそれが成瀬さんの匂いだと思うと、余計にドキドキする。これまたいい匂いだからしんどい。
部屋の真ん中で突っ立って悶絶していると、成瀬さんがお弁当らしき物を持って戻ってきた。私を視界に入れた彼は「何でそこに立ってるんだ?」と怪訝な顔をした。
「成瀬さんの匂いを嗅いで倒れそうになってました」なんて、絶対に言えない。