つれない男女のウラの顔

どう考えても私が言える立場じゃないけど、成瀬さんが出ていくことだけは絶対に避けたかった。これ以上迷惑をかけてまで、この部屋で過ごしたいとも思わないから。

そもそも私が鍵を落とさなければこんな事にもならなかったのだ。どうにかして阻止しないと…。


「私がいるとお仕事に集中出来ないと仰るなら一言も喋りません。存在を消すのは得意なんです。だから…」


矢継ぎ早に言葉を放ち、とにかく必死に引き止めた。成瀬さんの視界に入らないように、玄関やトイレで寝る覚悟だって出来ている。


「…ここにいてくれませんか…?」


Tシャツの裾をぎゅっと握って、ごにょごにょと言葉を紡いだ。
静かに私の意見を聞いていた成瀬さんが、ゆっくりと口を開いた。


「…コミュ障のくせに、結構大胆なんだな」

「えっ…いや…」

「俺が出ていかないということは、同じ部屋で一夜を明かすことになるけど、抵抗はないのか?」

「……」


ないと言えば嘘になる。男性は苦手だし、さっきからろくに目も合わせられないし、きっとぐっすり眠れないと思うし。

だけど成瀬さんとなら大丈夫だと思えた。安心感があった。

あれ。でも、もしかして成瀬さんは違う…?


「…今まで一度も男性と一夜を明かしたことはないですけど…成瀬さんのことは信じられる気がします…。でも、成瀬さんは私なんかと…」

「花梨がそう言うならこのままここにいるよ。もし出ていって事故でも起こしたら、それこそ花梨は自分を責めるだろうしな」


成瀬さんは私の言葉を遮るようにそう言うと、この話は終わり、とでも言うように「てことで俺は遠慮なくビールを飲むよ」と、冷蔵庫の方へ向かった。

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