つれない男女のウラの顔

「当人にしか分からない苦労があるよな」

「はい。コソコソ隠さずに堂々としていれば、何か違ったんでしょうけど…お陰でずっとひとりぼっちでしたね。一匹狼なんて、そんなかっこいいものじゃない」

「俺も基本ひとりだったよ。気を許せる友人はほんの数人しかいない。でも多ければいいというものでもないし、むしろ俺は大勢でつるもうとする人間より、花梨みたいなやつの方が好感が持てる」


決して突き放したりしない、包み込むような言葉をくれる成瀬さんの言葉が心地いい。抜け出せなくなりそうな安心感を覚えてしまう。

卑屈になりがちだけど、成瀬さんといると自然と自信が湧いてくる。彼の言葉は、本当に不思議な力がある。


「…でも、いくら苦手だっていっても、目を見て話せないのは人としてどうかと思うので。これからは徐々に直していかなきゃなーって…」


視線を上げた矢先、ふいに目が合って息を呑んだ。お弁当を持った彼が、上目がちに私を捉えていたから。
成間接照明のせいなのか、その顔があまりにも美しくて、箸を持つ手が止まった。

──すき焼きの味がしない。


「…なんで赤くなる?」

「…お風呂の余韻…ですかね」


成瀬さんがイケメン過ぎるからですよ!

目が合っただけで赤面するなんて重症だ。これだから不意打ちって怖い。

成瀬さんと話すようになって、赤面する回数が増えた気がする。心は満たされているはずなのに、症状が悪化してるってどういうこと。


「まぁ、花梨が目を合わせられないのも、石田の本性を見抜けなかったのも、男に免疫がない証拠だよな」

「ですね…お恥ずかしい。こんな私でも、一応彼氏がいたこともあるんですけどね」

「は?」


ポロッとカミングアウトすると、今度は成瀬さんの手が止まった。珍しく目を見開いたまま固まっている。

確かに意外かもしれないけど、そこまで驚かれるとは思わなかった。

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