つれない男女のウラの顔
(とりあえずメッセージを…)
スマホを出して、石田さんの名前を探す。トーク画面を開くところまでいったけど、すぐに閉じた。
もう少しきちんと作戦を練ってから行動に移そう。成瀬さんは石田さんのことをかなり警戒しているみたいだし。昨日の電話のことを突っ込まれても困るから、なるべく朝一でササッと受け取りたいところだけど……
……なんて言ってる間に、就業時間になっちゃいましたよね。
一応仕事が始まる前に石田さんを発見したのだけど、他の部署の先輩と真剣な面持ちで会話をしていたから、さすがに声をかけられなかった。忙しそうな空気だったし、何かトラブルがあったのかもしれないから。
引き伸ばせば引き伸ばすほど気が重くなって、何度も溜息が漏れる。無意識に険しい顔になり、いつも以上に近寄り難いオーラが出ているのか、さっき井上主任が何か言いかけてやめていた。またいつもの“お誘い”をするつもりだったのだろうけど、空気を察してくれたらしい。
デスクの上の製品をぼーっと見つめてみるけど、検査をする気分にもなれない。鍵が返ってこないと落ち着かない。
再び溜息をつきそうになったその時、背後になんとなく気配を感じた。ゆっくりと振り返り視線を上げると、そこにいた人物に思わず目を見張った。
「…えっ…?」
その人物は動揺する私とは反対に、いつも通り落ち着いていて。私と視線が交わると、表情ひとつ変えず「これを井上主任に渡してください」と、手に持っていた書類を差し出してきた。
ふわっと微かに鼻腔をくすぐったのは、今日の私と同じ匂いで。かぁっと体温が上昇するのを感じて、マスクで出来る限り顔を隠した。