傷心した私が一夜を共にしたのはエリート俺様同期~いつも言い合いばかりだったのに、独占欲強め、嫉妬心剥き出しな程に溺愛してくるのですが?~
「陽葵……おい、陽葵ってば」
「……何よ?」

 休憩室を出た私たちはエレベーターに乗り込む。

 私たち以外誰も居ないので二人きり。

 無言でいた私に一之瀬が何度か声を掛けて来たので、睨むような視線を向けながらそれに応える。

「何で怒ってんだよ?」
「そりゃあ怒りたくもなるよ。いくら不安だからって、館林さんにあの態度は無いんじゃないの?」
「はあ? 何でアイツの肩持つんだよ?」
「別にそういうつもりは無いよ? ただ、人としてあの態度は無いって言ってるの」
「いや、あんな風に宣戦布告されてヘラヘラなんて出来ねぇだろ? 俺は心配なんだよ、お前がアイツに気持ちがいくんじゃねぇかって……」
「だから、それは無いって言ってるじゃん。何で信じてくれないの?」
「だったら! 俺を正式に陽葵の『彼氏』にしてくれよ」
「っ!!」

 一階に着きドアが開き掛けたその時、一之瀬は『閉』のボタンを押すと、私を壁際に追い詰めながら正式に彼氏にして欲しいと懇願してきた。

 分かってる。

 今ここでただ一言、『分かった、正式に付き合おう』と言えば良いだけだと。

 でも、やっぱりそれは違う気がする。

 そもそも私は、次付き合うならすぐに駄目になりたくない訳で、いくら相手が一之瀬と言えど、何が原因で駄目になるかなんて分からない。

 しかも、不安を感じて嫉妬されるのも束縛されるのも嫌じゃないけど……このままじゃ付き合ったところで、何かある度に不安になりそうだし、その度に相手とあんな風になるのは困る。

 それも、職場で揉め事なんて更に困るのだ。

 それに、私はもう少し信用して欲しい。

 仮でも今は『彼女』なのに、こんな風に信用されないんじゃ、正式に付き合ったって同じ事になりそうで……嫌だ。

「――とにかく、職場でそういうのは止めて。私が今言いたいのは、それだけだから」

 睨みつけたまま冷めた声で言い放つと流石の一之瀬も反省したのか、私の前から退いてボタンからも手を離す。

「……陽葵……」

 ドアが開くと私は振り返る事をせず、一之瀬よりも先に出て行った。
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