傷心した私が一夜を共にしたのはエリート俺様同期~いつも言い合いばかりだったのに、独占欲強め、嫉妬心剥き出しな程に溺愛してくるのですが?~
「もう、そんなこと言わないの。外回りお疲れ様、丞」
「ありがと。そっちは明日の打ち合わせ?」
「うん、そう」
「とうとう明日か……はぁ……、俺も行きたい……」
「それは言わない約束でしょ? 別に泊まりじゃないんだし、仕事なんだから割り切ってよね」
「分かってるって」
「ほら、私たちも戻ろ?」

 いつまでも廊下で話し込んでいる訳にもいかないので戻ろうと歩き出した――次の瞬間、

「――陽葵」

 名前を呼ばれ、突然腕を引かれた私が振り返ると、

「――ッ!」

 一之瀬の顔が近付いてきたと思った刹那、唇を塞がれていた。

「ちょっ! な、何してるのよ、こんなところで……!」

 ほんの一瞬、触れる程度のキスだったけれど、場所が場所なだけに驚いた私は小声で抗議する。

「いいじゃん、誰も居ないんだし」
「そーゆう問題じゃないから!」
「……嫌だった?」
「…………嫌、じゃ、ない……けど……」

 この場合、嫌とか嫌じゃないとかそういう問題じゃない気がするけど、そんな風に聞かれたら、『嫌じゃない』と答えるに決まってる訳で。

 まあ、人が居ない事を確認した上での行動だろうし、明日の事で不安に思ってるんだろうから今日のところは大目に見るけど、

「……みんな仕事中って言っても人が来るかもしれないんだから、気を付けてよね」

 毎回こんな事されても困るから、これからは気を付けるよう念を押す。

「分かったよ。気を付ける……なぁ陽葵」
「何?」
「今日、陽葵の部屋に泊まってもいい?」

 泊まるのは全然いいけど、出来ればそれは休みの前の日の方がいい。

「……いいけど…」
「けど、何?」

 私が言いたい事なんて絶対分かってるくせに、わざわざ聞いてくるあたり、意地悪だと思う。

「……明日もお互い仕事だし、私は明日、遅れる訳にはいかないから……早く、寝るからね?」

 はっきり何がとは言わないでみたけれど、私が言いたい事が分かっている一之瀬はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながら、

「俺だって、そのつもりだけど? わざわざ言ってくるとか、陽葵の方が何か期待してるんじゃん?」

 なんて返してくるからやっぱり意地が悪いと思った。
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