新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「はい。 行ってらっしゃい」
なるべく、 平静を装って普段通りに言ったつもりだった。
中原さんは、 知っているのかな? まだ知らないかもしれないので、 ここで私が騒いでしまったら、 困るのは高橋さんなのだから。 波打つ気持ちを抑えて、 必死に仕事に集中しようと、 一心に電卓を叩いていた。
30分ぐらい経っただろうか? 高橋さんが社長室から戻ってきた。 けれど、 その表情からは何も窺い知る事は出来なかった。 勿論、 中原さんにも社長室に行った内容は、 恐らく内示の事であろう予測は出来ただろうけど、 高橋さんは何も語ろうとはしなかった。
退社時間ギリギリになった頃、 会計のデスク周辺が華やいだ空気が流れた気がして、 ふと顔をあげると、 山本さんがやってきた。 そして、 迷わず高橋さんの机へと向かうと、 無言で掌を出して高橋さんに何かを催促している。
何?
まさか……お金でもせびりに来たとは、 到底思えないし……。
すると、 高橋さんはパソコンの画面を見ながらキーボードを打つ手を止めて、 少しだけ背もたれに上半身をも垂れかけると、 掌を出している山本さんの顔を見上げ、 無言で引き出しから2つ折りの紙を出して山本さんに渡した。 山本さんも、 素早くその紙を無言で受け取り、 2つ折りになっている紙を開き見ると、 チラッと私を見た。
うわっ。
山本さんと、 目が合ってしまった。 でも、 直ぐまた山本さんは視線を高橋さんに戻すと、 見ていた紙をまた2つ折りにして高橋さんに返した。
「今夜の予定は?」
山本さんが、 高橋さんの肩を軽く叩くと静かにそう言った。
「このメンツで、 飲みに行く予定だが……」
「そう。 それじゃ、 私も一緒ね。 イケメン中原に、 用事もあるし」
「えっ?」
驚いて顔を上げた中原さんを、 山本さんは横目でジロッと見た。
エッ……。
中原さんに用事って、 何かしちゃったの?
あの山本さんの視線から推察するに……中原さんと、 何かあったのかもしれない。
「場所は?」
「この前のところで、 いいだろう?」
「わかったわ。 終わったら行くから。 今、 もうね。 トイレとお友達なのよ! バリュウムで、 満タンいらっしゃいませって感じだから。 じゃあね」
そんな事を言いながら、 また颯爽と華やかな雰囲気を醸し出しながら、 山本さんは行ってしまった。
あの2つ折りの紙は……何だろう?
辞令……かな?
なるべく、 平静を装って普段通りに言ったつもりだった。
中原さんは、 知っているのかな? まだ知らないかもしれないので、 ここで私が騒いでしまったら、 困るのは高橋さんなのだから。 波打つ気持ちを抑えて、 必死に仕事に集中しようと、 一心に電卓を叩いていた。
30分ぐらい経っただろうか? 高橋さんが社長室から戻ってきた。 けれど、 その表情からは何も窺い知る事は出来なかった。 勿論、 中原さんにも社長室に行った内容は、 恐らく内示の事であろう予測は出来ただろうけど、 高橋さんは何も語ろうとはしなかった。
退社時間ギリギリになった頃、 会計のデスク周辺が華やいだ空気が流れた気がして、 ふと顔をあげると、 山本さんがやってきた。 そして、 迷わず高橋さんの机へと向かうと、 無言で掌を出して高橋さんに何かを催促している。
何?
まさか……お金でもせびりに来たとは、 到底思えないし……。
すると、 高橋さんはパソコンの画面を見ながらキーボードを打つ手を止めて、 少しだけ背もたれに上半身をも垂れかけると、 掌を出している山本さんの顔を見上げ、 無言で引き出しから2つ折りの紙を出して山本さんに渡した。 山本さんも、 素早くその紙を無言で受け取り、 2つ折りになっている紙を開き見ると、 チラッと私を見た。
うわっ。
山本さんと、 目が合ってしまった。 でも、 直ぐまた山本さんは視線を高橋さんに戻すと、 見ていた紙をまた2つ折りにして高橋さんに返した。
「今夜の予定は?」
山本さんが、 高橋さんの肩を軽く叩くと静かにそう言った。
「このメンツで、 飲みに行く予定だが……」
「そう。 それじゃ、 私も一緒ね。 イケメン中原に、 用事もあるし」
「えっ?」
驚いて顔を上げた中原さんを、 山本さんは横目でジロッと見た。
エッ……。
中原さんに用事って、 何かしちゃったの?
あの山本さんの視線から推察するに……中原さんと、 何かあったのかもしれない。
「場所は?」
「この前のところで、 いいだろう?」
「わかったわ。 終わったら行くから。 今、 もうね。 トイレとお友達なのよ! バリュウムで、 満タンいらっしゃいませって感じだから。 じゃあね」
そんな事を言いながら、 また颯爽と華やかな雰囲気を醸し出しながら、 山本さんは行ってしまった。
あの2つ折りの紙は……何だろう?
辞令……かな?