新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
最初から、 ミサさんの気持ちをわかっていて結婚して……。 結婚しても尚、 ミサさんの気持ちは自分にはないと知っていて、 それでも一緒にいるなんて……御主人は、 どんな想いでミサさんとずっと一緒にいたの?
「貴方……」
「それと、 きっと君は……高橋さんが、 もう自分には振り向いてくれないという事も、 わかっているんだろう?」
「……」
「頭の中ではわかっていても、 自分自身に踏ん切りがつかない事と子供の事が一緒になって、 今の君は自分を見失っている」
この人……ミサさんの御主人は、 本当にミサさんを愛している。
だからミサさんの考えている事も、 わかっているのに……。 それなのに、 黙って……。
「貴博の回復が、 今は一番の目標だ。 その為に、 本当に周りの皆さんには高橋さんをはじめ、 お医者様達にも多大なご協力を頂いた。 だからこそ、 ミサ。 君も貴博の為にも、 もっと強くならないといけないんだよ。 そして、 この10年もの間、 君は本当にもがき苦しんだと思う。 辛かったのも、 よくわかる。 だが……苦しかったり辛かったりしたのは、 君だけじゃないんだよ」
「貴方……」
ミサさんは、 目に涙をいっぱい溜めた涙声で御主人を見た。
「この10年。 君と同じように、 高橋さんも苦しんでいたはずだ」
うっ……。
ミサさんの御主人の言葉に高橋さんの顔を恐る恐る見ると、 高橋さんは無表情のまま色を成さない瞳で、 ミサさんをじっと見ているだけだった。
「そしてミサ……僕もだ」
「ああ……」
ミサさんが、 声をあげて泣き出してしまった。
御主人も、 この10年苦しかったんだ。
いちばん近くに居て、 ミサさんの気持ちが分かり過ぎるほど分かってわかっていたから……。
「そのきっかけを、 きっと貴博が……。 そんな僕たちに機会を作ってくれたんだと、 僕は思っている」
「……」
「ミサ。 そろそろ君も、 僕を見てくれてもいいんじゃないか?」
「貴方……」
ミサさんが、 御主人の左肩に額をもたれ掛けた。
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