腹黒御曹司の一途な求婚

創業記念パーティー

 蒼士と付き合い始めて、二ヶ月が経ったある日。

 オフィスフロアの片隅で、私は複合機の前に立っていた。
 スタートボタンを押して、今月の各店舗の売上達成状況を思い返しながら、コピーが完了するのを待つ。
 機械音が止んで用紙が吐き出されると、私はコピーしたての熱が残るそれを手に、足早に自分のデスクへと戻った。
 
 キビキビとした早歩きなのは、現場で散々躾けられた頃の名残だ。モタモタ歩いているとだらしなく見えるから、というのが理由。

「小芝ちゃん、持ってきてくれてありがとう。コピーを取らせてもらったから原本はお返しするね。あとはこっちで手続きしておくから」

 私のデスクの横で待ってくれていた小芝ちゃんへ預かっていた合格証を返すと、彼女は分かりやすく相好を崩した。

「やったー!試しに受けてみよーって思って取っただけの資格だったんですけど、持っててよかったです!美濃さん、本当にありがとうございます!」

 満面の笑みを向けられて私もつられて微笑む。
 
 レストランサービス技能検定の合格者にインセンティブを支給する――というスタッフのモチベーション向上のために私が企画した施策は、一ヶ月前に本部長の承認を得て、ようやく始動するに至った。

 これまで滞っていたのが嘘のように、サクサクと準備が進んで承認を取り付けることができたのは、蒼士の助力が大きい。
 彼に甘える形で、資料集めから効果の算出まで色々とアドバイスをもらってしまったので。本当に、感謝しかない。
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