腹黒御曹司の一途な求婚
 けれど私の一存で決められることじゃない。
 どうしよう、と判断を仰ぐように隣に座る蒼士を見やると、彼は思案顔で腕を組み、むっつりと唇を引き結んでいた。

『お披露目なんかしたところで、彼女が好奇や悪意に晒されるだけだ。俺は萌黄をそんなものに参加させるつもりはない。萌黄、気にしなくていいから』
 
 意外にも蒼士はご両親の提案をバッサリ切り捨てた。
 絶対にあり得ないと断固拒否する姿勢に、どうしてそんなにも頑ななんだろう……と疑問に思ったのだけれど、私に向けた気遣わしげな眼差しでハッと思い至った。
 
 メガバンクである、あおうみ銀行の創業記念パーティー――呉服業界大手の菊乃屋も当然招待を受けているだろう。
 それはつまり、父との再会を少なからず意味していて。

 ゾクリと背筋が粟立った。
 今まで普通にできていた呼吸の仕方を突然忘れてしまったかのように、息苦しさを感じた。
 
 もしも私と会ったら、父は何と言うだろう。
 貴子さんのように、金の無心に来たのかと罵られるかもしれない。二度と顔を見せるな、と吐き捨てられたら――想像するだけで身の毛がよだった。

 でも――

 この先もずっと蒼士の隣にいるのなら、父と遭遇する機会だって幾度もあるはず。
 その度に蒼士の背中に隠れて、ずっと逃げ回って。
 それでいいの?ともう一人の自分が自問してくる。

(それで、いいわけない……)

 蒼士が真っ直ぐに私を愛してくれているから、私も胸を張って彼の隣に立ちたい。
 トラウマを完全に克服できたわけじゃないけれど、それでも彼の愛情に報いたいという気持ちの方が優っていた。

 ギュッと拳を握り込む。
 覚悟を決めなきゃ、と自分を鼓舞して、面を上げた。

『私、出席したい。蒼士のパートナーとして、そのパーティーに……ダメ、かな?』

 蒼士の答えを伺うと、彼はやっぱり眉を曇らせていた。
 それでも私が気丈に微笑んでみせると、仕方ないと言わんばかりに肩をすくめて私の出席を認めてくれた。
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