腹黒御曹司の一途な求婚
 そう思っていたら、ガシッと脇を掴まれて向かい合わせになるように体勢を変えられた。
 私をジッと見据える双眸は、獣のようにギラギラとしている。このまま見つめていると、パックリと食べられてしまいそう。でも目が離せない。

「他に聞きたいことはある?」
「ううん。もう、大丈夫……」

 私も、彼の熱に当てられてしまったみたいだった。さっきの続きをねだるように、しなやかな筋肉がついた彼の胸元に指を這わす。
 目の前にある濡れた鎖骨辺りに吸い付いてみせると、グッと堪えるような呻き声が聞こえてくる。

「そんな誘うような真似されると、むちゃくちゃにしたくなる」
「いいよ……むちゃくちゃにして……」

 何もかも忘れるくらい、たくさん愛してほしい。
 その思いで彼の首に腕を回した刹那、パシャと水音がして私の後頭部が引き寄せられた。間髪を入れずに噛み付くようなキスを浴びせられ、緩んでいた唇に舌が捩じ込まれる。

 口内をくまなく舐め尽くす蒼士の舌にいつもは翻弄されっぱなしだけれど、今日は少し大胆に、私も彼の歯列をなぞってみせる。

 するともっと口付けが深くなり、互いが互いを貪るように舌を絡め合わせた。

「ん……ふあ……」

 気持ちいい。もっと、触れ合いたい。
 体の芯から湧き起こる情動に任せて、熱心に彼の舌を愛撫する。
 お風呂の熱気と彼の色香でクラクラとして、理性の糸は今にもプツリと切れてしまいそうだった。

「今の、マジでヤバい」

 唇を離して、蒼士は荒い息遣いを私の鼓膜に送り込んでくる。

「そんなこと言われたら、手加減できないだろ」
「……しなくていいよ」
「ああ、もうっ!」

 理性を取り払った雄の声で蒼士が唸る。
 はしたないけど、でも本心だから嘘はつきたくない。
 体の奥が物欲しげに疼くのを感じながら陶然として見つめれば、彼もまた欲望を露わにして私を見つめていた。

 視線が絡まり合う中で、そうするのが当たり前かのように自然と唇が重なる。

 夜が更けて空が白み始めるまで、私たちはひたすら享楽に耽っていた。
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