腹黒御曹司の一途な求婚

対峙

 創業記念パーティーから一ヶ月がたったある日。
 職場で一通のメールを受け取った私は、パソコンの前で硬直していた。

「美濃……おまえ何したの……?」

 恐らく宛先のCCに入っていたのだろう。隣の席の先輩――松田さんが心配そうに私を見やった。

 メールの送信元は総支配人の秘書から。
 内容は……今日の正午に、総支配人室へ来てほしいと、ただそれだけが書かれていた。
 ホテルのトップからの唐突な呼び出し。恐怖しかない。

「な、なにもしてないです……多分……」
「だよなぁ。三月だし、この時期だと転勤の話か?いや。でも美濃、ここにきてまだ一年だよな?わざわざ総支配人からってのも意味不明だし……」
「嫌な予感しかしないんですけど……」

 総支配人なんて雲の上の存在だ。話したことすらない。それが直々に呼び出されるなんて。
 懲戒処分……クビ……そんな不吉な妄想が頭をよぎる。

「ま!行ってみたら、意外といい話だったりするかもしれないぞ!」
「ええぇ……松田さん、他人事だからって言い方軽いです……」
「だって、実際他人事だし」
「ひどい!」
「悪い悪い。万が一懲戒食らったら、慰めに今日の昼飯の社食、奢ってやるから」

 全然それ、慰めになっていないんですけど……。
 というか、冗談でもそんな不吉なことを言わないでほしい。現実になりそうなので。

 三分の二くらいこの状況を面白がっている松田さんにニヤけつつ宥められ、時間になったところで、さながら判決を言い渡される前の被告人のような心境で、私はトボトボと総支配人室へ向かった。
< 137 / 163 >

この作品をシェア

pagetop