腹黒御曹司の一途な求婚
 物思いに耽っていたところで、いつの間にかスイートルームに辿り着いていたらしい。
 ドアの前には介添人のご婦人の他、撮影スタッフがズラリと並んでいて物々しい様子だ。
 挙式の前だが、既に結婚式というイベントは始まっている。このファーストミートの様子もバッチリ撮影され、披露宴のエンドロールで流す予定である。

 とはいえ、プライベートな瞬間まで撮影されることに気恥ずかしさを覚えないわけではない。
 己の一挙手一投足をつぶさに収めるべく、向けられたレンズに思わず苦笑が漏れる。

「花嫁様のご準備は既にできております。とってもお綺麗ですよ」

 介添人の言葉で気を引き締め、開けられたドアから部屋へ足を踏み入れた。


 白を基調としたモダンなリビングルーム。
 正面の壁は全面ガラス張りで、朝日を受けてキラキラと輝く青い海のパノラマを望むことができる。

 部屋の片隅には大きなハンガーラックが運び込まれており、そこには披露宴で着る予定の純白のウェディングドレスと、胸元に小花があしらわれたラベンダー色のカラードレスが掛けられている。
 
 中央に置かれた白のソファの傍らで、萌黄は俺に背を向けるようにして立っていた。

 真っ白な正絹の上には、白糸で描かれた鶴が優雅に羽を広げている。
 挙式で用いる綿帽子はまだ被っておらず、結い上げた髪を彩るのは白の胡蝶蘭。
 全身を無垢に染め上げた萌黄の姿は、後ろ姿ですら神々しい。
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