腹黒御曹司の一途な求婚
 それでもお嬢様の手が振り下ろされることはなかった。再び私の前に立った久高くんが、額に青筋を立てながら彼女の腕をギリギリと掴み上げていたから。

「おい、いい加減にしろ」

 怒りを滾らせる久高くんのドスの効いた声が個室に響く。先程までの冷然ぶりが嘘のようだ。
 お嬢様も驚愕で目を見開いている。そして分が悪いことを悟ったのか、憮然として振り上げた腕を下ろした。

「先程も言ったが、あなたの行動はどれも非常識で目に余る。よってあなたとの縁談はなかったことにさせていただく。二度と俺の前にその醜悪な面を見せるな。即刻出て行け」

 低く凍てついた声色で繰り出される台詞は、そばで聞いているだけの私も縮み上がりそうになる。お嬢様も同じだったようで、青ざめながら唇をギリギリと噛み締めていた。
 
「ッ!な、なんなの、その言い草……。私にそんな口を聞いていいと思ってるの?!お父様に言いつけてやるわよ!!」
「へえ、そうですか。で、それが何か?」
「お、お父様が知ったら、あなたの銀行との取引なんてすぐなくなるんだからね!謝ったって、もう許してなんかあげないんだから!!」
「どうぞご自由に。あなたに許してもらう道理なんてないしな」

 久高くんが鼻で笑ってあしらうと、お嬢様は顔を真っ赤に染め上げて憤怒を露わにし、地団駄を踏んだ。

「絶ッッッ対に許さないんだから!!!お父様に言いつけてやる!!!」

 捨て台詞を吐き、お嬢様は乱暴にドアを開け放ち個室から出て行ったのだった。
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