腹黒御曹司の一途な求婚
 そうしている内に久高くんはグラスに残った赤ワインを一気に呷っていた。
 ゴクリと上下する彼の男らしい喉仏に目を奪われる。
 
「でも、ずっと彼女がいなかったのは本当。仕事に集中したくて、恋愛はしばらくいいかなって思ってたからさ」

 久高くんはそう言って、口元に浮かべる笑みを深めた。
 私を見つめる視線がなんだか熱を帯びている、気がする。多分、気のせいだけれど。

「――俺、次に付き合う人とは結婚したいと思ってるんだ」

 久高くんの視線は一向に逸らされることがない。いつになく熱い眼差しに私は呼吸を忘れて見入った。
 まるで私と付き合いたいと、彼の瞳がそう告げているように思えて――

(…………い、いや。ないないないない。久高くん、酔ってるのよね?絶対酔ってるからだよね?)

 自意識過剰極まりない妄想を繰り広げそうになった脳に、私は必死でストップをかけた。
 
 久高くんとはこの間再会したばかり。そんな短期間で、彼のような超ハイスペックイケメンに好いてもらえるような要素なんて、私は何も持ち合わせていない。
 彼が私を好きだなんて、そんなことありえなさすぎる。

 思えば久高くんは結構飲んでいた。酔いが回ってきたから目の焦点が合わなくて、結果的に私を熱心に見つめているように見えるだけ。目の錯覚、思い込み、それに尽きる。
 危うく痛い勘違い女になるところだった。本当、危ない。
 私はそっと息をつき、ヘラっと笑って「そうなんだね」と流すことにした。

 その反応に久高くんが一瞬眉をひそめたのには気付かないまま、私は再び視線を鉄板で焼き上げられる最高級サーロインに戻した。
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