腹黒御曹司の一途な求婚
「美濃さんは初めてだったんだろ?そんな無責任なことはできない。俺に責任を取らせてほしい」
「せ、責任……?」
「美濃さん……いや、萌黄。俺と結婚してください」
「………………はい?」

 この人は今なんて言ったんだろう。私の耳が確かなら、けっこんしてくださいと言った気がする。
 ――けっこんって何だっけ?

(けっこん、けっこん、結、婚…………けっこんんんんんんん???!!!!)

 起き抜けの頭の中で結婚の二文字が浮かび上がった瞬間、衝撃が体中を駆け巡った。
 高速で瞬きを繰り返してこれが現実であることを実感すると、さらに混乱の最中に突き落とされる。
 
 一夜の過ちの責任を取って結婚なんて、ありえない。それに望んでもいない。
 ブンブンと顔の前で手を横に振って、私は爽やかな朝に似つかわしくない大きな声を上げた。

「い、いや!そんな責任なんて感じなくて大丈夫だから!むしろ感じないでください!同意の上だし!」
「それでも俺は男としてちゃんと責任を取りたい。萌黄、俺と結婚してくれ」

 久高くんの表情は真剣そのもの。冗談を言っているようには見えない。
 彼は本気で、私の初めてを摘み取ってしまった責任を取るために結婚しようとしているのだ。信じられないことに。

「じょ、冗談だよね……?」

 明治とか大正とかならともかく、今は令和だ。こんなことで責任を取る必要があるなら、世の中の結婚率はもっと上がっているに違いない。

 顔を引き攣らせながら冗談であることを祈ったけれど、残念なことに久高くんはゆるりと首を横に振った。

「冗談でこんなこと言うわけない。俺は萌黄が好きなんだ。今すぐ結婚がダメなら、まずは俺と付き合ってほしい」

 突然の告白。
 けれどもその前の衝撃的発言のせいで、トキメキよりもまず戸惑いが私の胸を占める。
 
「え、えええぇぇぇ……」

 答えに窮した私の悶絶が、キラキラと朝日が輝く部屋に響いたのだった。
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