腹黒御曹司の一途な求婚
「そういや、蒼士って昔、美濃さんのこと好きだったよな」
「…………よく覚えてるな」

 不意に駿が、思い出したように昔話を掘り起こしてきた。
 気恥ずかしさよりも、よくもそんな昔のことを覚えているなといっそ感心する。
 
「いやだって、美濃さんが転校して結構長い間ヘコんでただろ。苔でも生えるんじゃないかってくらいに。…………ちょっと待てよ、おまえもしかして仕組んだのか?美濃さんの職場を調べ上げて偶然を装って再会したとか……」
「んなわけあるか!」

 こいつは一体俺のことをなんだと思ってるんだ。そんな陰湿な小細工をするくらいならとっくの昔にやっている。
 
 失礼なことをのたまう駿をギロリとひと睨みするも、奴は全く気にするそぶりも見せずケラケラと笑っていた。

「冗談だよ、冗談。色々しがらみはあるだろうけど、上手くいくといいな」
「ああ」

 まるで激励のように掲げた駿のグラスに、自分のグラスを打ちつける。

 心優しい彼女は父親との約束でがんじがらめになりながら、それでも俺を傷つけまいとして板挟みになっている。
 本当に、なんて健気なんだろう。

 手を離してやるのが優しさなのかもしれない。だが――

(もう離したくないんだ……)

 後にも先にも、こんなにも熱烈に誰かに惹かれることがあるとは思えない。

(ごめん萌黄、諦めて俺を好きになって)

 そうしたら、きっと幸せにするから。
 
 諦めの悪い己を自嘲しつつ、俺は氷が溶けて薄くなったウーロン茶を一気に飲み干した。
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