腹黒御曹司の一途な求婚

答え

「今日はごめん。母さんがいきなり押しかけてきて」

 心底くたびれた様子でジンジャーエールを口に含みながら、久高くんはハァとため息をついた。
 重々しいそのため息からは彼の精神的疲労が伝わってくるようで、私は苦笑する。

「ううん。むしろ私がご挨拶したいって言ったんだし」
「でも色々うるさかったろ?」

 うるさい、とは思わなかったけれど、確かに芙由子さんはお喋り好きのようだった。
 
 久高くんの子供の頃のことを話す芙由子さんはすごく楽しそうに生き生きとしていて。
 繰り出されるエピソードはどれも可愛くて、懐かしさも相まって私も聞き入っていたのだけれど……。

『そういえば。あなた、小学校の頃も萌黄さんのことが好きだったわよね?いっつも美濃さんが、美濃さんがって言ってたもの。ほら、修学旅行とか遠足とかで誰と同じ班だったのって聞くでしょ?そうしたらいつも、美濃さんと一緒だったって一番に言ってたのよ。本当に好きなのねぇっていつも思ってたわ』

 なんて話を聞かされてからは平静を保っていられなかった。
 ちなみに久高くんは、話題が自分の幼い頃の話になると途端にムスッとして、ひたすらコーヒーを飲んでいた。不機嫌な様子の久高くんが珍しくて時折チラチラと盗み見ていたのは内緒だ。
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