花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第拾玖話 溺レル

キスをしたまま、彼が私を抱え上げて作業台に座らせる。

逃がさないみたいに、作業台についた両腕に挟まれて、見上げるみたいな彼と唇を重ねる。
私の髪が彼にかかる。

「息、できなっ……」
「必要ないだろ?」
「ん……ふっ」
「もっと溺れて」
甘くて苦しくて、目が潤む。
本当に溺れているみたいなキス。

「かわいいな、木花」
彼が右頬に触れる。目元に親指が当たって一瞬目を瞑るようにピクッと反応してしまう。
頭がさっきよりフワフワしてる。
目線の高さが合って、見つめあう。

「本当は」
彼が私の目を見て言う。

「この絵はクリスマスプレゼントにするつもりだったんだ」
「え……」
「だけど、どこかの誰かが先にプレゼントを渡してしまったようだから」
颯くんの、あのブルーの箱。

私は潤んだ目のまま首を横に振る。

「あれは……そのまま、箱も開けてなくて」
あのプレゼントには意味なんてない。

「今度、お返しするって言ったの。櫂李さんにも相談して選ぶって」
「偉いな」
彼が額をコツンとつける。

「だけどその答えは、プレゼントの意味がわかっているってことだね。それなのに受け取ったんだ」
首を振ろうとしても額がくっついてうまく振れない。

「悪い子だな」
櫂李さんが「フッ」と笑う。

「自分は嫉妬なんてしない人間だと思っていたけど、木花に出会ってからはそうでもないってわかった」

「きゃっ」

作業台の上に上半身を押し倒されて、また唇を奪われる。
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