花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「ただい——」
「では、詳しいお見積りはまた後日お持ち致しますので。これで失礼します」
玄関の引き戸をあけると、スーツを着た30代くらいの男性が靴を履いたところだった。
「ああ、奥様ですか? 私——」
「雁木さん、ご挨拶は結構です」
名刺を差し出そうとした男性を、櫂李さんが止めた。
「あ、そうですか、では失礼いたします」
男性は一礼すると家から出て行った。
「お仕事関係の方ですか?」
「ああ、そうだよ」
「ふーん」
見たことが無い人だったけど、画商さんとか雑誌の編集さんかな。
「はぁ……」
私がお客様の職業を予想している後ろで、櫂李さんが小さくため息をついた。
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
そう言うと、彼は突然フワッと私を抱きしめた。
「か、櫂李さん?」
戸惑う私に彼は何も言葉を発しないで、ただ黙ってそのまま私を抱きしめ続けた。
私が全く予想していなかった言葉を櫂李さんの口から聞くことになったのは、それから一週間ほど後の春休みに入ったばかりのことだった。
「では、詳しいお見積りはまた後日お持ち致しますので。これで失礼します」
玄関の引き戸をあけると、スーツを着た30代くらいの男性が靴を履いたところだった。
「ああ、奥様ですか? 私——」
「雁木さん、ご挨拶は結構です」
名刺を差し出そうとした男性を、櫂李さんが止めた。
「あ、そうですか、では失礼いたします」
男性は一礼すると家から出て行った。
「お仕事関係の方ですか?」
「ああ、そうだよ」
「ふーん」
見たことが無い人だったけど、画商さんとか雑誌の編集さんかな。
「はぁ……」
私がお客様の職業を予想している後ろで、櫂李さんが小さくため息をついた。
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
そう言うと、彼は突然フワッと私を抱きしめた。
「か、櫂李さん?」
戸惑う私に彼は何も言葉を発しないで、ただ黙ってそのまま私を抱きしめ続けた。
私が全く予想していなかった言葉を櫂李さんの口から聞くことになったのは、それから一週間ほど後の春休みに入ったばかりのことだった。