花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第弐拾壱話 離別

***

二月の上旬。

私は無事、期末の課題やテストを切り抜けて櫂李さんとの春休みを満喫している……はずだった。

それなのに、今目の前では私の荷物が春海家のお屋敷から運び出されようとしている。

「荷物がかなり少ないので、半日程度で作業が終わると思います」
先日のスーツの男性が、櫂李さんに話しかけている。

彼は櫂李さんの仕事相手なんかじゃなくて、引っ越し業者だった。
ふいに櫂李さんと目が合う。だけどすぐにこちらから逸らす。

***

五日前、一月の終わり。

夕飯を食べ終わる頃に彼に言われた。
後から考えたら、その日の夕食時は彼の口数が少なかった。
『木花、この後大事な話がある』

そして客間にもしている部屋に呼ばれる。
向かい合って正座するこの状況は、結婚の話をした時とよく似ている。
胸の前で腕を組んだ彼は、何かを考えるように黙り込んでいる。

『あの、課題も終わって無事春休みに入りました』
沈黙に耐えられなくて、報告をする。

『前に結婚記念日に旅行って言ってたけど、春休みに旅行とかもいいかなって——』
『木花』
『は、はい』

『急な話で申し訳ないんだが』
彼の声色が真剣で、妙に緊張してしまう。

『私と離婚してほしい』

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