花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
『え?』
彼の言葉に頭が真っ白になる。

すぐに本気だと理解してしまったのは、彼がこういう冗談を言わない人だってわかっているから。

『……なんでですか? 突然』
心臓が嫌な音を鳴らす。

『はっきりとした理由があるわけではない』
『え、そんな』

『私と君ではこの先幸せになれない』
『そんなこと、どうしてわかるんですか? そんな理由で別れるなんて嫌です』
彼は眉間にシワを寄せ、『はぁ』とため息をついた。

『はっきり言おう』
彼が私の目を見据える。

『私が冷めてしまったんだ』
『冷めた?』
彼が頷く。
『どうやらあの絵を描いて満足してしまったらしい。君に対する特別な感情がだんだんと薄れてしまってね』
彼がまたため息をついた。

『君をこの先、私の手で幸せにしたいと思えなくなってしまった』

目を見て言われたそのひと言で、十分だった。
『そうですか……』
声が震えてしまった。

どこか諦めたような人生を生きてきてしまったから、恋愛だって結婚だって永遠じゃないことくらいわかってた。
別れなんて〝なんでもない〟って思いたいのに、俯いてしまう。

『家はノースエリアに春海家が所有しているマンションがあるから、しばらくはそこに住むといい。ずっと住んでいたければそれでもいい、君の好きなように使ってもらって構わない』
彼は、淡々と話している。

『財産分与についても君がこの先困らないようにする』
本当に本気なんだ。

『姓は、君が使いたければしばらくは春海を使い続けてくれても構わない』
ずっと考えていたのかな。

『それからこれ』

彼が一枚の紙を私の目の前に差し出す。
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