花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
私は引っ越しのトラックとは別で、タクシーで新居であるマンションに向かうことになっていた。
お屋敷の前で業者さんと住所に間違いがないかを最終確認して、タクシーに乗り込む。

少し走ると、あの門に差しかかる。
守衛さんが門を開けてタクシーとトラックを通す。
今日の守衛さんはあの日とは違う人だ。

櫻坂の桜並木は、まだまだ春を待つ冬の色。
だけど、あとひと月と少ししたらまた満開の桜が姿を現す。

『ちょっと待ってください』

あの日、櫂李さんが現れた瞬間の風の音が聞こえた気がした。

『この桜は、櫻坂の桜と同じ時期に植えられたそうだよ。兄弟だと思っていいだろう。今日のところはそれを持って帰りなさい』

あの時から、ずっと温かかった。

『木花、君はとてもきれいだ』

悲しい結末になってしまったけど、忘れるなんて絶対にできない。
私の人生で、きっと一番きれいで大切な夜。

『私が冷めてしまったんだ』

本当に?
どうして?
いつから?
どこか私に悪いところがあった?

本当は納得なんてできるはずがない。

頬を温かいものが伝う。
とめどなく、納得できない心の分だけ流れてくるみたいに。

『あげるよ、全部』

本当に、あなたの気持ちはもう変わらないの?
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