花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「あ、ミルク? はい」
「あー……サンキュー、じゃ! バイト頑張れよ」
「うん、颯くんもね」

小さく手を振って颯くんの背中を見送っていると、双葉さんが声をかけてくる。

「菊月先生ってさ、春海さんのこと絶対好きでしょ」
「え? 前にも言ったけど、無いですよ。兄妹みたいなものですもん」
「えーでも、春海さんが働き始めてから毎日来てるんじゃないかな」
「え?」
「少なくとも私のバイトの日は毎回聞かれるよ『今日は春海さんいますか?』って」
「そうだったんですか。でも、お兄ちゃん目線なんじゃないですか? 私は結婚してる……し」
颯くん……。


翌日のバイト中。

何人か接客をして、ふと、ロビーに目がいく。
櫻坂の絵が目に入って、胸が複雑な音を鳴らす。

ため息をついて俯いて、カウンターに置かれたメニューに目をやったところで「あら」という声が聞こえた。
「木花さん?」

顔を上げると、そこにいたのは透子さんだった。

「あなた、こんなところでアルバイトしてるのね」
「はい……」
彼女の言葉には、どうも肩に力が入ってしまう。

「そんなに警戒しないでちょうだい」
彼女は笑う。
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