花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
彼は驚いて立ち止まった。

「木花……」

ドアの正面を避けるように少し脇へ寄る。

本当に櫂李さんだった。
あまりの外見の変化についマジマジと見てしまう。

「なぜ君がここに? ……菊月先生か?」
私は首を振って否定する。

「私のバイト先って、ここのカフェなんです。それで先週櫂李さんを見かけて」
彼は「やれやれ」という顔でため息をついた。

「アルバイト先をしっかり聞いておくべきだったな。失敗ばかりだ」
他にも何かを失敗したような口振りでつぶやく。

「あの……」
「今ここで君と話すことは無い。失礼するよ」
「え、あの」

「木花、いや……古川さんとでも呼んだ方がわかりやすいか? 私たちはもう他人だ」

彼の突き放すような冷たい言葉に、無意識に首を振っていた。

「他人……でいいから、そんな風に呼ばないでください。あ、だって、あの……私、春海を名乗らせてもらっているから」
「……そうか」

「櫂李さん、どこか悪いんですか?」
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