花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
私の質問に、彼が一瞬言葉を詰まらせたように見えた。

「たいしたことではない」
「でも……」

「病気だとして、それこそ他人の君に言うことではないだろ?」
〝他人〟を繰り返されるたびに苦しくなる。

「だけど、そんなに見た目も変えて——」
「君には関係のないことだ」

「目……」

私がつぶやくと、彼がこちらを見る。

「目、じゃないですか? 悪いところ」

私が自分の右目を指さすように手を当てて言うと、彼は驚いた顔をする。

「なぜ?」

「さっき、菊月〝先生〟って。私、颯くんがこの病院のお医者さんだってあなたに言ったこと無いはずです。彼は眼科の先生だから、先生なんて呼び方するなんて、彼に目を診てもらってるんじゃないですか?」

彼は「はぁっ」と小さくため息をつく。
「歩きながら少し話そう」
彼は諦めたように言った。

二人で病院の近くの大通りの歩道を歩く。

「君の思っている通り、私は目の病だ」
彼の言葉に不安になり、何も言葉が出ない。

「しばらく前から、目が疲れやすくなったと感じていた」
彼は私と暮らしている間も、時々目が疲れたと言って目薬をさしていた。

「年が明けた頃からだんだんと視界の端が暗くなるようになってしまってね」

それで一月に総合病院に行ったのだという。
彼は、自分の病気について話してくれた。

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