花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第弐拾伍話 表層

颯くんとの生活は、表面的な部分だけを見ればとても居心地が良くて楽しかった。

「うまい。なんか懐かしい味がする」
「本当? 良かった。私のハンバーグはおばあちゃんに教えてもらったの」
彼は私が料理をすればなんでも美味しいと言って食べてくれる。

「吉乃さんか。昔俺も何度か吉乃さんの料理をごちそうになった記憶があるな」
「そうなの? 昔の家に住んでた頃?」

「うんそう。木花がまだこんな小さかった頃」
颯くんが床に水平になるように手のひらを向けて、子どもの頃の私の小ささを示した。

「そうなんだ。おばあちゃんは料理が好きだったから」
付き合いが長い分、共通の話題も多くて話しやすい。

「おばあちゃん、私が高校生の頃まで毎日お弁当作ってくれてたんだ。他にも色々習ったから今度作るね」
颯くんが嬉しそうに笑う。
「今度改めて墓参りにも行かないとな」

『会ってみたかったな、木花のおばあさん』

櫂李さんとお墓参りに行った時のことを思い出してしまう。
「う、うん。そうだね。今度行こっか」
思い出したって悲しくなるだけなのに。

そんな風に時々どうしても櫂李さんのことを考えてしまうし、毎晩ベッドに入ると不安になって泣いてしまう。
だけどなんとかうまくやりながら十日ほどが過ぎた。
気づけばもう三月になっていた。

「木花、今度の俺の休みにどこか出かけないか?」
「どこかって?」
「遊園地でも映画でも水族館でもさ、どこか遊べるところ」
それってつまり、デートってことだ。

「じゃあ……遊園地がいいな」

できるだけ賑やかで明るい場所に行きたい。

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