花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第弐拾陸話 幼馴染

「お前……ずっとこれ付けてたのか?」

彼の質問に、小さく頷く。

颯くんが暴いた私の胸元には、チェーンに通された指輪が輝いている。
彼と暮らしていながらも、私はずっと櫂李さんとの結婚指輪を身に付け続けていた。

「……私は颯くんに想われる資格なんて無いの」
目を隠したまま言う。

「私は、颯くんが思ってるような〝しっかり者の良い子〟なんかじゃないから」

「どういう意味」
彼が聞く。

「私ずっと……颯くんのことを妬んでた」
ずっと隠してきた感情。

「私が持って無いものを全部持ってたから。……お金も、家族も、将来も」
あなたよりも短い人生の中で、私が失ってきたもの全部。

「颯くんにご飯に誘ってもらうたびに、私との立場の違いを見せつけられてるみたいで嫌だった」

当たり前のように奢ってくれて、それもだんだん高いお店になっていって。
話すことはどこに行ったとか、何を買ったとか、将来は医者になりたいだとか。

「なのに、ずっと断らないで……颯くんの気持ちに気づいてからも、ずっと曖昧にして」

こんなの、涙を流しながら言うようなことじゃない。

「どこかで思ってたの、颯くんと付き合っていた方が得することがあるはずだって。現におばあちゃんは、颯くんのおかげであの病院に入院できた。私はずっとあなたを利用してきたの。今だって」

颯くんは何も悪くないのに利用してた。

それなのに、こんな風に涙が止まらなくなっているなんて。

私は最低な人間なんだよ。

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