花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
私がしばらく泣き続けて、二人の会話は無くなった。

「はぁ……」
颯くんは、私に跨ったままで呆れたようにため息をついた。

それから私の手を、顔から外した。颯くんと目が合ってどうしたらいいかわからず戸惑う。

「舐めんなよ」
「え……」

「そんなこと、ずっと気づいてた」
彼は少し悲しそうな表情をしている。

「木花から俺にお願いしてくることなんて滅多に無かっただろ? 食事の店だって絶対希望を言わないし、プレゼントを渡せば絶対に何か返してくる……何でも持ってるような俺に、少しでも借りを作るのが嫌だったんだよな?」

颯くんは、私が思っていたよりもずっと深いところで私を理解していたのかもしれない。

「吉乃さんの入院の件で、初めてお前から頼られて嬉しかったよ」
胸がギュッと締めつけられる。

「ずっとお前に好かれてないってわかってた。俺が持ってるものに良い感情が無いことも。だけど」

颯くんが私の目を見る。

「俺は木花のそういう自尊心の高さも含めてずっと好きなんだ。それに、俺が持ってるものはいつか全部お前にあげられるからそれでいいって思ってた」


『あげるよ、全部』


こんな時でさえ、私は櫂李さんの言葉を思い出してしまう。

「いらない……」

また涙が出てしまう。

「そんなのいらないの」

私が欲しいのは、彼だけだから。


「だから……お願いだから、彼から色を奪わないで」


自分の感情なのに、いろんな感情が綯い交ぜになったみたいでよくわからない。
ただただ泣きじゃくることしかできなくなってしまった。

「狡いな木花は。こんな話の後であいつのことで頼るんだから」

颯くんはベッドの端に腰掛けると、またため息をついた。
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