花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
守衛さんが一人ってことは、そのうちお手洗いにでも行ったら無人になるはずだ。
その隙を狙う。
門の守衛なんだから、桜のことまで見ないでいて欲しいんだけど……なんて思ってみるけど、街の所有である桜の樹を傷つけるのはどう考えても犯罪行為だって子どもでもわかる。

私の身長で届きそうな枝が、よりにもよって守衛さんの待機場所の近くにしかないなんて。
つくづく運が悪い。
高くない背も、結んでも隠しにくい長い髪も、桜泥棒には不向きだ。
だけど絶対に持って帰りたい。

『もう一度、櫻坂の桜が見たいわねぇ』

見せてあげたい。

十分ほど待って、その時が訪れた。
守衛さんがどこかへ行った。
お手洗いだとして、五分くらい?

私はゴクッと唾を飲んで、桜の木に近づく。

ドキドキしながら、手の届く枝に左手をかけてたぐり寄せる。

持ってきていた小さな枝切りバサミの刃で枝を挟む。


あと少し、右手に力を入れたら終わり。


あと少し……


「そこで何してる!」


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