花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「湿度が関係あるんですか?」
「紙の張りとか絵の具の伸び、定着なんかにもすごく影響する。絵の保管にも」
「そうなんだ」
「それは西洋画でも同じだと思うんだけど」

そう言って櫂李さんがこちらを見るので、バツの悪い笑顔を浮かべる。
私は西洋美術史という西洋絵画の歴史を勉強しているから、絵画の基礎は知っていなければいけない。

「授業は疲れて寝ちゃうことが多かったから……単位は進級ギリギリでした」

櫂李さんが「ふぅ」とため息をつく。

「これからはちゃんと勉強しなさい」
「はーい」
思わず「ふふ」っと笑う。

「何?」
「櫂李さん、お父さんみたいだなって」
彼は一瞬唖然とした表情でこちらを見た。

「お父さんなんかじゃないって木花でもわかるように、あとでしっかり教えてあげるよ」
本気か冗談かわからない、冷ややかな声で言う。
……多分、本気。

「六月なのに、桜なんですね」
櫂李さんの用意した下絵を見ながら聞いた。

そこには線画で桜が描かれている。
日本画は、下絵をトレーシングペーパーに描き写して、それを本描き用の紙に転写して描くらしい。
それだけでもすごく手間がかかっている。

あの満開の桜の絵を、あんなに短い期間で仕上げるのはきっとすごく大変だったんじゃないかと素人でも想像できる。
そして感謝の気持ちでいっぱいになって、また泣きそうになる。

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