花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「二十一です」
「え? じゃあ学生? こんなオッサンのどこが良かったの?」

「私はまだ三十二なんだが。君より五つも若い」
「あー悪い悪い、オッサンくさい喋り方だからいつも四十代くらいだって勘違いするんだよな。まあ三十二でも二十一からすれば十分オッサンだろ。だいたい五歳も上の人間に君とか言うなよ」

如月さんは悪びれずに笑っている。親しい間柄の冗談なのかな。

「〝コノカ〟ってどんな字? 結婚祝いに何かひとつ書いてあげるよ」
矢継ぎ早に櫂李さんに話しかけていたかと思うと、急にこちらにボールが来てびっくりしてしまう。

「え、えっと、木に花です」
いつか櫂李さんにもしたみたいに、自分の手のひらに書いて見せる。

「木花ね。オッケー。それにしても櫂李がこんなに急に結婚するとはなー」
なんていうか、ノリが軽い。
でも明るくて楽しい人って感じはする。

「あれ、この字って木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)だな。なんか髪も黒くて長くてそれっぽいな」

「コノハナノサクヤビメ?」

「神話に出てくる美しいとされる神だよ。黒い髪なんて言っても、姿は誰にもわからない」
櫂李さんが教えてくれた。

「はーなるほどな〜。だからお前、最近桜ばっかり描いてるのか」

如月さんの言っている意味が全然わからなくて、櫂李さんの顔を見上げる。
彼はまたため息をつく。

「こんな風に教えるつもりではなかったんだけどな」

櫂李さんのつぶやきもまた、意味がわからない。
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