その指先で、僕を描いて。
声がする方向へ振り向くと、
そこには1人の男子生徒が立っていた。
黒く艶のある髪にその髪の毛の間から見える大きい吸い込まれそうなほど綺麗な瞳。
それに、決して作られてはいない自然な笑顔。
まだ何も知らないのに一瞬にして、"この人は見た目も心も綺麗な人だ"と脳が判断した。
「ん?どうかした?」
あ、やばい。この人の作品にもこの人自体にも見惚れていた。
「あ、あの…!いえ!すごく素敵な作品だなって思って…!」
そう私は慌てながら答えると、
「え、本当に?それは素直に嬉しいなあ。この作品は"自分"を表現してみたんだ。」
と、その男子生徒は優しい顔をしながら自分の作品に近付いた。
私がそんな彼を目で追っていると、
「ねえ、君にはこの作品はどう見えてる?」
そう真剣な瞳で問われた。
「ど、どうって…」
先程まで色々作品について考えていたくせにいざ聞かれると緊張してうまく言葉が出てこなかった。
「ああ、ごめん。ごめん。いきなり聞かれても困るよね。大丈夫だよ。」
そう男子生徒は私にニコッと軽く口角を上げて微笑み、美術室から去ろうとした。
私にはその表情にどこか切なさを感じ、
「温かく綺麗で美しい森にいるけど、籠に閉じ込められててその美しい森では飛べない鳥…的な?」
しまった。意味不明な表現をしてしまった。
かんっぜんにやらかした。
きっとこの人は美術部の生徒。
私の部活人生も終わった…お疲れ、自分__。
「…すごい…」
彼がボソッと何かを言った。
「へ?」と私が聞き返すと、
「君、表現力凄いね!しかもちゃんとこの絵に込めた事伝わってる気がする。つまり、僕の事理解された気分!僕、神木颯(かみき そう)!君は?」
目を輝かせこれでもかくらい顔を近付けて早口で話す男子生徒、神木颯に私は圧倒されてしまった。